- 2015.01.16 Friday
「Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学」を読んで、むしろ他の大企業の参考にならないであろうAppleの特殊性を思ってしまった件
IMac history“ eftir Running - written below. Gefið út undir CC BY-SA 2.5 frá Wikimedia Commons
"iMac"の名付け親であり、”Think Different”キャンペーンなどで有名なAppleの広告に携わってきたケン・シーガル氏の著書です。
彼は、NeXT時代からスティーブ・ジョブズ氏と仕事をした経験を持ち、さらに、IBM、インテル、デル等の有名な大企業とも仕事をしてきた経験から、ジョブズ氏復活後のAppleがいかに他の大企業と違ったかを、豊富なエピソードで説明してくれてます。
この本を読んだのはもっと前だったんですけど、最近ジョナサン・アイブ氏の本が出て、その記事を書いた流れで、
ジョナサンアイブ本「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」読みました。 | Creative Arts Showers's Blog
改めてこの本「Think Simple」の視点からジョブズ氏の凄さも振り返ると良いかなと思い、今頃記事を書いてみてる次第です。
ジョナサン・アイブ氏の本がAppleの製品開発についての本でもあるとすれば、この本はマーケティングの本ですけど、それにとどまらず、広く経営の話でもあるかなと思います。
本文でも、
”アップルはハードウェア、ソフトウェア、製造、戦略、製品の発売方法、PR、マーケティング、小売りなど、多くの面でうまくやっているが、そのすべてを貫き、まとめあげているのが〈シンプルさ〉なのだ”
と、Appleの経営全般を貫く理念として、シンプルさが語られています。
このAppleのシンプルさは、大企業では極めて稀有なもののようです。
”インテルやデル、IBM、そしてアップルのためにマーケティングをおこなってきた私がたしかに言えることは、シンプルさを追求するアップルの姿勢は、ほかの企業では見られないということだ。それはたんなる熱中や情熱をはるかに超え、熱狂の域にまで達している”
”スティーブと仕事をする前に、私はいわゆる大企業と多くの仕事をしてきた。だから、スティーブのシンプルな世界に入ったときに、ショックを受けた(いい意味で)。アップルの文化のほうがはるかに前へ進みやすい。そして、スティーブの世界を出て、ふたたび従来の組織と働いて、昔と同じ問題に苦しめられるようになったときにもショックを受けた(悪い意味で)”
”スティーブは、「大企業らしい行動」には強く抵抗した。アップルが大企業になってもう何年もたっているのに、最高に頭がよく創造的な少人数のグループがアップルの驚異的な成功の原動力となったことをわかっていたので、それを変えるつもりは毛頭なかったのだ。彼がかかわる会議では、席にいる誰もが重要な参加者でなければならず、見物人などいらなかった”
具体的にAppleがどうシンプルで、他の企業がどう複雑で、その結果がどうだったのかのは、本文中に実際の例がいくつも列挙されてます。
Appleとデルのブランド確立の挑戦の比較は分かりやすく対照的で面白かったです。
ただ、改めて読み直して思ったのは、現実的にあまり大企業には参考にならないかもしれないな、ということでした。中小企業とかベンチャー企業にはとても参考になるのではとは思いますけど。
本文中でも、他の大企業も「Appleのように」ということを意識してるが現実はそうはならない、ということをシーガル氏も見てきたという指摘もありましたし。
”複雑になることは簡単だ。一方で、シンプルになるのはかなり骨の折れる作業だ。製品ラインアップをミニマル化し、ターゲットを融合するためには、みずからをいつもきびしく精査しつづけられる組織でなければならない。 それは自然に起こることではない。シンプルさには擁護者が必要なのだ。”
という言葉がありましたが、Appleにとってのシンプルさの擁護者にジョブズ氏がなれたのも、Appleが倒産の危機を迎えて追い詰められてたことも要因の一つかなとも思ったりします。
早急の治療のために、シンプルに、無駄を省いて、根本に立ち返る必要に迫られてたという状況が、ある意味幸いした面もあったのかなと。
倒産の危機が現実的なものになる頃のAppleでは、 やはり大企業的な弊害も多々あったようで、それが理由でジョナサン・アイブ氏をAppleに引き抜いたデザイン部門の上司はAppleを辞めたようですし。
そもそもジョブズ氏も一度Appleから追放されてますしね。
その時を振り返ったジョブズ氏の1985年のインタビューでは、当時のAppleが、いくつもの部門で派閥があって、強力なリーダーを社外から呼ぼうと思って、スカリー氏と対立した、という話もありました。
ジョブズ氏自身、30歳の時の彼では当時のAppleの強力なリーダーにもなれないとも思ってたそうです。
そう考えると、Appleのシンプルさというのは、大企業で、かつ倒産の危機に瀕し、そこに、NeXTやピクサーで経験を重ねた才能あるカリスマ創業者が戻ってきた、 という類稀な状況だったからこそ出来た、「大企業なのに奇跡的な文化」なのかもしれず、他の大企業で真似するのも難しいかな、とすら思ってしまいました。
大抵、「お前はジョブズじゃない」と横槍入りまくって終わりですよね、きっと。
「すごいですよ、おっさんの嫉妬は!」 夏野剛氏がドコモ社内の縄張り争いを振り返る | ログミー[o_O]
やはりジョブズ氏復活後のAppleが特殊で稀有な大企業ということで。
他の大企業には参考になるんだかならないんだか微妙ですが、Appleについて垣間見るにはとても面白い本でした。
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- 18:08
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- by watarai9